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結核は空気感染する細菌の結核菌によって起こる伝染性の高い感染症です。
通常、結核は肺を侵しますが、どの器官にも起こりえます。ウシ型結核菌やマイコバクテリウム‐アフリカナムのようなマイコバクテリアも、似たような病気を起こすことがあります。
結核は長いこと公衆衛生上の大きな問題となってきました。1800年代のヨーロッパでは、死因の30%以上を占めていました。その後1940年代に抗結核用の抗生物質が登場したことにより、人類は結核との闘いに勝利を収めたかにみえましたが、公衆衛生対策の不備、エイズによる免疫力の低下、薬剤耐性、世界各地に残る貧困などにより、残念ながら、結核は今なお命を脅かす病気となっています。毎年世界中で800万人が症候性結核として新たに診断され、300万人が死亡しています。全世界の3人に1人が潜伏性の結核感染者であるともいわれますが、実際に発病するのはそのうち約5〜10%です。
米国をはじめとする先進国では、結核は高齢者に多く、開発途上国では逆に若者に多い傾向があります。2000年の統計によると、米国で報告された結核患者の22%は65歳以上でした。高齢者の発病が多いのは、若いころ結核がまん延していた時代に潜伏感染して休眠していた菌が、年をとって免疫力が下がったところで活動を始める例が多いからだと思われます。しかし幸いなことに、毎年新たに高齢者層に入る人々の潜伏感染率が下がっているおかげで、高齢者の結核罹患率も減少傾向にあります。
結核の歴史はヨーロッパが最も古いため、ヨーロッパ系の人々は、後から結核が入って来た国の人々の子孫に比べて、いくらか病気への抵抗力をもっています。つまり、米国では結核は黒人、アメリカ先住民、その他の少数民族、ヨーロッパ以外の国からの移民の方が感染率が高くなっています。さらに、これらのグループの人々は、より低所得であり、密集した環境に暮らし、医療を受ける機会も少ない傾向にあるため、結核がうつりやすい条件にあるといえます。
感染はどのように起こるか
ブドウ球菌性咽頭炎や肺炎をはじめとする感染症のほとんどは、微生物が体内に侵入した直後から体調が悪くなり、1〜2週間以内にはっきりした症状が出ますが、結核はこのような経過をたどりません。
感染の各段階: 乳幼児を除いて、結核菌が体内に入ったばかりの「初期感染」と呼ばれる段階で病気になる人はほとんどいません。肺に侵入した結核菌のほとんどは、体の防御機能によってただちに殺されてしまいます。生き残った菌は白血球の1種であるマクロファージに取りこまれ、「潜伏感染」といって、小さな瘢痕(はんこん)組織に入りこんだ状態のまま何年も休眠状態で生き続けることができます。感染しても90〜95%は一生問題を起こしませんが、残りの約5〜10%では菌が活動し増殖しはじめます。感染者が実際に発病し、他の人への感染も起こるのは、この活動期のときです。
大多数で、感染から2年以内に潜伏していた細菌の活性化が起こりますが、長い間たってから起こる場合もあります。どういう理由で細菌が活性化するのかはよくわかっていませんが、高齢、コルチコステロイド薬の使用、エイズなどで免疫力が低下するときに起こりがちです。他の感染症と同様に、免疫力が低下した状態だと結核は急速に広がり、危険度も高くなります。乳幼児、高齢者、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者などにとって、結核は命にかかわる病気です。
感染の伝播: 結核菌は人間だけに感染し、動物、昆虫、土壌、無機物は菌を宿すことはできません。感染した人の体内で活性化した菌からのみ感染するのです。空気感染なので、感染者にさわっただけでは感染しません。ただし、動物の体内で生きられるウシ型結核菌は例外で、開発途上国では小児が感染したウシの原乳を飲むことで感染します。
活動性肺結核の場合は、せきやくしゃみだけでなく、話をしただけでも菌がまき散らされ、この菌は空気中で数時間生きています。別の人がこれを吸いこむと感染が起こります。潜伏感染や肺以外の結核の場合には、菌は空気中には放出されず、感染も起こりません。
感染の進行と広がり: 結核が潜伏感染から活動性の病気へ進行する度合いは、人によって大きく異なります。たとえば、黒人やアメリカ先住民では白人よりも速く病気が進行する傾向があります。これは、結核菌に対する抵抗力に遺伝的な差があるからです。免疫力の低下も大きく影響し、エイズ患者が結核菌に感染すると、2カ月以内に活動性結核に移行する確率は50%、その後は毎年5〜10%の割合で発病していくなど、高い確率と速いスピードで病気が進行します。
免疫機能が十分に働いている場合、活動性結核の部位は通常は肺に限られます(肺結核)。肺以外に広がるのは、肺結核が血流を通して広がったときです。この場合も肺と同様に、菌はすぐには病気を起こさず、ごく小さな瘢痕組織の中で潜伏病原体となって休眠し、何年もしてから活動を始めて各器官を侵すことがあります。妊娠中の場合、結核菌が胎児に移行して病気を起こすことがありますが、このような先天性結核はまれにしかみられません。
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| 結核によるさまざまな臓器への影響 |
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感染部位
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症状や合併症
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| 腹腔 |
疲労、膨満感、軽い圧痛、盲腸炎のような痛み |
| 膀胱 |
排尿時の痛み、血尿 |
| 骨(主に小児) |
腫れ、ごく軽い痛み |
| 脳 |
発熱、頭痛、吐き気、眠気。治療せず放置した場合は昏睡や脳障害 |
| 心膜(心臓を包む膜) |
発熱、頸静脈の怒張、息切れ |
| 関節 |
関節炎のような症状 |
| 腎臓 |
腎障害、腎周囲の感染症 |
| リンパ節 |
痛みはないが赤く腫れる、膿が出ることもある |
| 生殖器 |
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男性
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陰嚢のしこり |
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女性
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不妊 |
| 脊椎 |
痛み、やがて椎骨虚脱と脚の麻痺 |
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症状と合併症
結核で最もよくみられる症状はせきです。病気はゆっくり進行するので、初めは喫煙、かぜの名残、あるいは喘息(ぜんそく)が原因ではないかと思っているうちに、朝、せきをすると黄色や緑色のたんが出るようになり、やがて血液の筋が混じるようになります。大量の血液が混じることはまれです。
夜中におびただしい量の寝汗が出ることも、この病気のもう1つの症状です。汗が大量で、寝間着や寝具まで取り換えなければならないこともあります。ただし、寝汗は結核だけに特有のものではありません。せきと寝汗に加えて、全体的に気分が優れず、元気や食欲もなくなってきます。少したってから体重も減少してきます。
急に息切れがして胸痛がある場合は、肺と胸壁の間に空気(気胸)(胸膜疾患: 気胸を参照)または水(胸水)(胸膜疾患: 胸水を参照)がたまっている徴候です。結核の約3分の1は胸水から症状が始まります。放置すると、感染が肺に広がるにつれて息切れが強くなります。
新しい結核感染症の場合、菌は肺から付近のリンパ節まで移動します。体の自然な防御機能が感染症を制御できれば、そこで感染症は止まり、菌は休眠状態になります。ところが、乳幼児の場合は自然の防御機能が万全でないため、リンパ節が大きく腫れて気管を圧迫し、高い音の空せきが出て、場合によっては肺虚脱まで起こることがあります。また、リンパ管を伝って首のリンパ節まで感染症が広がることもあり、腫れたリンパ節から膿(うみ)が皮膚を破って出てきます。
肺以外の結核(肺外結核)としては、腎臓とリンパ節に起こるものが最も多く、骨、脳、腹腔、心膜、関節(特に腰や膝[ひざ]など体重を支えている関節)、生殖器にも起こります。このような部位の結核は診断が困難です。
肺外結核は、疲労、食欲不振、ときどき出る熱、発汗、ときに体重減少がある以外は症状に乏しく、結核が生じた部位によって痛みや不快感があったりなかったりします。
脳や脊髄(せきずい)を包む髄膜に感染する結核性髄膜炎は致死的な病気です。米国をはじめ先進国では、この病気にかかるのは高齢者がほとんどですが、開発途上国では、生まれたばかりの乳児から5歳までの小児に多くみられます。発熱、持続する頭痛、首のこわばり、吐き気、眠気やときに昏睡(こんすい)などの症状が起こります。結核は脳に感染することもあり、結核腫という病巣ができることがあります。結核腫は、頭痛、けいれん発作、筋肉脱力感などの症状を起こします。
結核性心膜炎は心膜を侵す結核です。この感染が起こると心膜が厚くなり、心臓と心膜の間に水がたまります。こうなると、心臓のポンプ機能が損なわれ、頸静脈がふくれ(怒張)、呼吸が苦しくなります。
腸結核は主に開発途上国でみられます。症状がないこともありますが、感染部に組織の異常増殖が起こり、間違って癌(がん)と診断されることがあります。
診断
定期健康診断の胸部X線検査で異常が発見されたり、ツベルクリン反応(マントー試験、精製ツベルクリン[PPD]としても知られています)検査が陽性になって初めて結核が見つかったりすることはよくあることです。結核を疑わせる症状がある場合は、胸部X線検査を行い、ツベルクリン反応を調べ、たんのサンプルを検査に出します。たんは結核菌がいないか顕微鏡で調べられ、菌の培養も行われます。顕微鏡による検査は培養に比べて検査にかかる時間はたいへん短いものの、精度は劣ります。結核菌は増殖が遅いので、培養検査では、結果が出るまでに何週間もかかります。
結核の胸部X線所見は他の病気の所見と似ていることが多いため、診断は、ツベルクリン反応とたんの検査で結核菌を検出することによります。ただし、ツベルクリン反応は結核を診断する最も有用な検査の1つですが、過去に結核菌による感染症にかかった事実がわかるだけで、現在活動性の結核があるかどうかは、この検査では判明しません。また、結核菌に近いが害はない菌による感染症(結核に似た病気 を参照)があった場合や、結核の予防接種を最近受けた場合にも、偽陽性になってしまいます。
たんは肺からのサンプルとして適当なものですが、気管支鏡を使って気管支を調べ、粘膜や肺の組織を採取して検査することもあります。これは、肺癌など他の病気の疑いがあるときに行われる手法です。
結核性髄膜炎の可能性を示唆する症状があるときは、脊椎(せきつい)から髄液を採取して(脊椎穿刺)分析する必要があります。髄液中の結核菌を見つけるのは難しく、培養には何週間もかかるので、サンプルはPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法という細菌の微量のDNAでも検出できる検査に出されます。検査結果はすぐに得られますが、少しでも結核性髄膜炎の疑いがある場合には、死を回避し、脳の障害を最小限に食い止めるために、結果を待たずにただちに抗生物質で治療を開始します。
治療
結核に有効な抗生物質はたくさんあります。しかし、結核菌は増殖が非常に遅いので、具合がすっかり良くなってからも長い間治療を続ける必要があり、通常は6カ月以上抗生物質を服用し続けなければなりません。そうしないと、菌を完全に排除することができず、再発を招きやすいのです。
このように長期にわたって毎日薬を服用し続けることは、大半の人にとって苦痛であり、さまざまな理由から、具合が良くなると治療をやめてしまう人もいます。これを防ぐため、結核については直接監視下治療(DOT)と呼ばれる方法で治療を行い、薬の管理を医療スタッフに任せる方法が推奨されています。この方法では、患者が薬を服用したかどうかを医療スタッフが毎回必ず確認するので、治療期間が短縮されるケースが多く、薬の投与も通常は週に2〜3回ですみます。
結核の治療には、作用の異なる2種類以上の抗生物質を組み合わせて使います。1種類だけで治療すると、その薬に耐性をもつ菌を体内に少数残してしまうことになるからです。他の菌であれば大半は再発を起こすほどの数ではありませんが、結核の場合は単剤で治療すると、その薬に耐性をもつ結核が起きてしまいます。初期の集中治療段階では、治療期間を短縮し、菌に薬剤耐性が最初からあったとしても治療を確実に成功させるために、第3、第4の薬を併用します。
最もよく使われる抗生物質はイソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、ストレプトマイシン、エタンブトールです。イソニアジドは1万人に1人の割合で肝臓の障害を引き起こし、吐き気、嘔吐、黄疸(おうだん)などが現れることがあります。リファンピシンも、特にイソニアジドと併用した場合に肝臓に障害を与えることがあります。これらの副作用は薬をやめればなくなります。ピラジナミドも肝臓の障害や痛風を引き起こします。ストレプトマイシンは内耳の神経を障害し、めまいや軽い難聴を引き起こします。エタンブトールは視神経に作用し、ものがぼやけて見え、色覚の低下を起こすことがあります。しかし、95%の人ではこれらの薬剤を使って重い副作用もなく治療に成功し、結核を完治することができます。
これらの薬剤には、さまざまな併用法や投与スケジュールがあります。イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミドの3剤を1つに含むカプセルも出ており、毎日服用しなければならない錠剤の数を減らし、薬剤耐性が生じる可能性を下げるのに役立っています。
薬剤による治療計画を忠実に守っていれば、手術で肺の一部を除去しなければならなくなることはまずありませんが、薬剤に非常に強い耐性を示す感染症や、たまった膿を抜き取る場合などは、手術が必要となります。結核性心膜炎によって心臓の動きがかなり制約されている場合は、心膜を外科的に除去する必要があります。脳に結核腫ができた場合も、手術で摘出します。
予防
予防には、病気の感染を抑えることと、病気が活動性になる前の早期感染症の段階で治療するという2つの柱があります。
結核菌は空気感染をするので、十分な換気をし、新鮮な空気を取り入れることで空気中の細菌の量を減らし、感染を抑えることができます。また、ホームレスの保護施設、刑務所、病院や救急外来など感染のリスクの高い人々が集まる場所には、殺菌用紫外線装置を設置して空気中の結核菌を殺すことも予防対策になります。
結核菌は活動性結核の場合にのみ感染力をもつので、活動性結核を早期に発見して治療することが、感染拡大を抑える最も良い方法の1つです。活動性結核の人は、せきをするときにはちり紙などで口を押さえ、菌が周囲に飛び散らないよう注意し、せきが出なくなるまでは隔離状態にいるべきです。適切な抗生物質で数日間治療を行えば、病気をうつす可能性は低くなり、1〜2週間で隔離の必要もなくなります。ただし、乳幼児やエイズ患者など感染するリスクの高い人がいる職場で働いている人の場合は、繰り返したんの検査をして、感染の危険がなくなったことを確認してからの復帰となります。治療を受けてもせきが続く、きちんと薬を服用することができない、薬剤耐性の結核にかかっているなどの場合は、病気のまん延を防ぐために隔離期間が長くなります。
予防の2つ目の柱は、ツベルクリン反応検査で陽性となったが、まだ発病していない人々への治療です。これにはイソニアジドがたいへん有効で、6〜9カ月間毎日服用することにより、活動性結核になる前に感染を食い止めることができます。リファンピシンとピラジナミドの併用を2カ月間、あるいはリファンピシン単剤を4カ月間という新しい短期間の治療法も開発されています。予防投与は、ツベルクリン反応検査が陽性だった若い人には明らかに有益な方法です。また、高齢者でも、最近ツベルクリン反応が陽転した人、感染者と接触した人、免疫機能が低下している人など、結核のリスクが高い場合には行う価値があります。一方、長い間結核が潜伏状態にある高齢者の場合は、抗生物質の毒性による危険の方が、結核が活動性に転じる危険より高いおそれがあります。
ツベルクリン反応検査が陽性の人がHIVに感染すると、活動性結核に転じる確率が非常に高くなります。ステロイド薬の投与を受けたときも同様で、潜伏していた結核が活動性になる危険が大幅に増します。したがって、これらの場合は潜伏している結核感染を治療する必要があります。
開発途上国の多くでは、BCGと呼ばれるワクチンが髄膜炎などの重い合併症を防ぐ目的で、結核菌に感染しやすい高リスクの人に使用されています。しかし、BCGの意義については議論が分かれており、結核にかかる危険が非常に高い国でのみ使用されています。現在、より効果の高いワクチン開発に向けて研究が行われています。生後すぐにBCGを接種した場合、約10%の人が結核菌に感染していないにもかかわらず15年後にツベルクリン反応検査で陽性を示します。ただし、結核は多くの国で忌まわしいものとされているため、活動性結核はもちろんのこと、潜伏感染であろうとも感染しているということを認めたがらない傾向があり、そのため、ツベルクリン反応で陽性の結果が出た場合、生後すぐに受けたBCGのせいにしているケースもままあります。
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