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嚢胞性線維症

嚢胞性線維症は、特定の分泌腺に異常な分泌物が産生し、それによって組織や器官、特に肺や消化管が損傷を受ける遺伝性疾患です。

嚢胞性線維症は、米国の白人を死に至らしめる最も多い遺伝性疾患です。この病気は白人の乳児の約3300人に1人、黒人の乳児の約1万5300人に1人の割合で発症します。アジア人にみられることはまれです。嚢胞性線維症は性別に関係なく同じように発症します。

肺だけの病気ではない嚢胞性線維症

肺だけの病気ではない嚢胞性線維症

肺では、気管支の分泌物の粘着性が高くなり、細い気道をふさいで炎症を起こします。病気が進行するにつれて、気管支の壁は厚くなり、気道は感染した分泌物で満たされ、肺のあちこちが萎縮し、リンパ節は腫大します。肝臓では、粘り気の強い分泌物が胆管をふさぎます。胆嚢内も閉塞します。膵臓では、粘り気の強い分泌物で分泌腺が完全に詰まります。小腸では、粘り気の強い分泌物によって胎便性イレウスという腸閉塞が起こり、一部の新生児では手術が必要です。生殖器官は嚢胞性線維症の影響をさまざまな形で受けるので、不妊症になることもよくあります。皮膚の汗腺や耳下腺は正常時よりも塩分を多く含んだ液体を分泌します。

嚢胞性線維症は、受け継いだ2本の遺伝子の両方に遺伝子欠損(突然変異)がある場合に発症します。この遺伝子は、塩化物イオン(Cl)とナトリウムイオン(Na)の細胞膜を介した輸送を調節するタンパク質の産生を制御します。世界中の白人の約100人に3人が、欠損のある遺伝子を1本もっていますが、それだけでは病気は発症しません。白人の約1万人に3人はこの欠損のある遺伝子を2本もっており、嚢胞性線維症を発症します。嚢胞性線維症にかかると、塩化物イオンとナトリウムイオンの輸送が阻害され、脱水症を起こし、粘り気の強い分泌物が増加します。

嚢胞性線維症は、全身の多くの器官と、管の中に液体を分泌する外分泌腺のほぼすべてに影響を及ぼします。分泌物の異常はさまざまな形で起こり、分泌腺の機能に与える影響もそれぞれ異なります。膵臓などにある一部の分泌腺では、分泌物は粘着性が高いか硬く、分泌腺を完全にふさぎます。やがて、膵臓は瘢痕化を起こします。肺の気道内にある粘液分泌腺は、気道を詰まらせ、細菌の増殖を助ける異常な分泌物を産生します。汗腺や耳下腺(ほおにある小さな唾液腺)では、正常時よりも塩を多く含んだ液体を分泌します。

症状

肺は出生時には正常ですが、それ以降はいつでも呼吸障害が起こる可能性があります。粘り気の強い分泌物で徐々に細い気道が詰まり、それによって気道の炎症および気道の壁の肥厚化が生じます。太い気道が分泌物で充満すると、肺のあちこちがつぶれて萎縮し、無気肺(無気肺を参照)と呼ばれる状態になり、リンパ節は腫大します。これらの変化によって呼吸困難がさらに悪化し、血液中に酸素を取りこむ肺機能が低下します。気管支の分泌物や気道の壁の中で細菌が繁殖するため、気道感染症が起こります。

膵臓の管や腸管の分泌腺がふさがってしまうと、脂肪、タンパク質、ビタミンなどをうまく吸収できなくなるなどの消化障害が起こります。徐々に栄養障害が起き、発育が遅れます。一部の患者では、異常な便の成分が腸管をふさぎ、腸閉塞が起こります。

嚢胞性線維症の新生児の約15〜20%に、胎便性イレウス(先天異常: 腸の回転異常を参照)という重い小腸の閉塞が起こります。胎便性イレウスはときに、腸のねじれ(腸捻転)や発育不全を合併します。胎便性イレウスの新生児はほぼ必ず、いずれ嚢胞性線維症の他の症状も起こします。嚢胞性線維症の新生児の中には、胎便が一時的に大腸に詰まり、排便が生後1〜2日後になることがあります。

胎便性イレウスを発症しなかった乳児では、出生時の体重を回復するのに時間がかかったり、生後4〜6週間の体重増加がほとんどないことなどが最初にみられる嚢胞性線維症の症状です。脂肪やタンパク質の適切な消化に欠かせない膵臓の酵素の分泌量が十分ではないため、ほとんどの嚢胞性線維症の乳児は消化不良を起こします。乳児には頻繁に、大量の悪臭のする脂っぽい排便がみられ、腹部はふくれ、筋肉は未発達です。食欲は正常または旺盛ですが、体重はゆっくりとしか増加しません。

嚢胞性線維症の小児の約半数は、頻発するせき、喘鳴(ぜんめい)、気道感染症などのために初めて医師にかかります。せきは最も目につく症状で、吐き気、嘔吐、睡眠障害などを伴うことがよくあります。病気が進行するにつれて胸部がたる状になり、酸素不足によって指はばち状(肺と気道の病気の症状と診断: ばち指を参照) になり、爪の付け根は青っぽい色になります。鼻にポリープができることもあります。副鼻腔は粘り気の強い分泌物で満たされ、慢性的なもしくは再発する副鼻腔炎を起こします。

嚢胞性線維症の患者は、成人、小児ともに、暑いときや発熱時に大量の汗をかき、そのため体内の塩分や水分が不足して脱水症を起こすことがあります。親が、子供の皮膚に塩の結晶が生じたり塩辛い味がすることに気づくことがあります。

少年期の成長は遅く、第2次性徴は遅れ、身体的持久力は低下します。病気が進むにつれて肺感染症が主要な症状となります。気管支炎や肺炎が繰り返し起こり、肺は少しずつ破壊されます。

合併症

脂溶性のビタミンA、D、E、Kの吸収が不十分なため、夜盲症、くる病、貧血、出血性疾患が起こることがあります。治療を受けていない乳幼児の約20%で、直腸の内層が肛門から飛び出す直腸脱がみられます。大豆のタンパク成分を含む調整乳や母乳を与えられた嚢胞性線維症の乳児は、十分なタンパク質を吸収できないために貧血や手足のむくみを起こします。

嚢胞性線維症の少年や成人の合併症には、胸膜腔(肺と胸壁内部を覆う2層の胸膜の間のすき間)の内部への肺胞の破裂などがあります。破裂によって空気が胸膜腔内へ入りこみ、肺がつぶれる気胸(胸膜疾患: 気胸を参照)が起こります。その他の合併症には心不全や広範囲もしくは再発性の肺出血があります。

嚢胞性線維症の成人の約15%では、膵臓が瘢痕化して十分な量のインスリンを産生できないために、インスリン依存性の糖尿病を発症します。胆管が粘り気の強い分泌物でふさがると肝臓は炎症を起こし、最終的には嚢胞性線維症の成人の約5%が肝臓の瘢痕化(肝硬変(脂肪肝、肝硬変、その他の関連疾患: 肝硬変を参照))を起こします。肝硬変は、肝臓に至る静脈の血圧を上昇させて門脈圧亢進症(肝臓の病気でみられる症状: 門脈圧亢進症を参照)を起こし、そのために食道下端にある静脈は拡張してもろくなり、破裂するとひどい出血を起こす食道静脈瘤を形成します。嚢胞性線維症のほぼすべての患者の胆嚢は小さく、粘り気の強い胆汁が充満しているので、ほとんど機能しません。約10%の患者には胆石が生じますが、症状を起こすのはほんの数パーセントにとどまります。外科的な胆嚢摘除術が必要となることはまれです。

嚢胞性線維症では生殖機能の障害がよくみられます。ほぼすべての男性が、精巣の片方の管の発育異常とそれによる精子の移動の妨害によって精子の数が減少し、不妊症になります。女性では、子宮頸部の分泌物の粘着性が非常に高いために受精率が低下します。その他の性機能は影響を受けません。嚢胞性線維症の女性は、妊娠中に肺感染症や糖尿病などの合併症を起こすリスクが高いですが、多くの女性が出産しています。

その他の合併症には関節炎、腎結石、血管炎などがあります。

診断

嚢胞性線維症の診断は、普通は乳児期または幼児期に確定しますが、患者の約10%は少年期または青年期まで診断されません。

診断は、この病気に特有の症状が1つ以上ある場合に、汗の中の塩分量を測定する検査を行って確定します。この検査では、ピロカルピンという薬を皮膚の上に貼って発汗を促し、汗を集めるためのろ紙もしくは薄いチューブを皮膚の反対側に貼り、汗に含まれる塩分濃度を測定します。嚢胞性線維症の症状がある人や嚢胞性線維症の兄弟姉妹がいる人で、塩分濃度が正常値よりも高ければ、診断が確定します。検査の結果は、生後48時間以上の新生児に有効とされますが、生後3〜4週間以下の新生児では、検査に必要な量の汗を採取するのは困難です。汗の検査は外来で実施され、年長児や若年層では診断を確定できます。

嚢胞性線維症の新生児では、トリプシンという消化酵素の血液中の濃度が上昇します。トリプシンの濃度は、小さなろ紙に血液を1滴採取すれば測れます。汗の検査と遺伝子検査に加えて、この酵素の測定が、嚢胞性線維症の新生児を見つけるスクリーニング検査の基本となっており、世界各地で行われています。しかし、米国ではまだこの検査は義務化されてはいません。

1つ以上の嚢胞性線維症に特有の症状がみられる人や兄弟姉妹に嚢胞性線維症の病歴がある人では、遺伝子検査によっても診断は可能です。2本の遺伝子に突然変異が見つかった場合に診断が確定します。しかし、遺伝子検査で確認できるのは、1000種類以上ある嚢胞性線維症の遺伝子の突然変異パターンの数パーセントに過ぎず、遺伝子に2つの突然変異が見つからなかった場合も、嚢胞性線維症ではないと断定できるわけではありません。この病気は、絨毛膜の絨毛採取や羊水穿刺によって行う、出生前の胎児の遺伝子検査(遺伝病の検査: 遺伝子検査を参照)で診断できます。

嚢胞性線維症はさまざまな器官に影響を及ぼすので、他の検査が有用な場合があります。膵臓の酵素濃度が低下している場合、便の分析によって、膵臓から分泌される消化酵素であるトリプシンやキモトリプシンの濃度低下や検出できないほどの減少、含まれる脂肪の量の増加がわかることがあります。インスリンの分泌量が低下していれば、血糖値が上昇します。肺機能検査(肺と気道の病気の症状と診断: 肺機能検査を参照) では呼吸器系の免疫機能の低下が示され、肺機能の程度を示す良い指標となります。また、胸部X線検査やCT検査は、肺感染症や肺の損傷範囲を確かめるのに有用な場合があります。

嚢胞性線維症の遺伝子に欠損があるかどうかを調べる検査は、その可能性がある両親に対して行われます。特に、嚢胞性線維症を発症した子供の親族は、自分たちに同じ病気の子供が生まれる可能性があるかどうか知りたいと考えるだろうし、彼らは遺伝子検査やカウンセリングを受ける権利があります。遺伝子検査は、わずかな血液サンプルで可能です。両親の両方に少なくとも1つの欠陥遺伝子がない限りは、子供に嚢胞性線維症は発症しません。もし両親がともに欠陥のある嚢胞性線維症の遺伝子をもっている場合、嚢胞性線維症の子供が生まれる可能性は25%です。

治療

嚢胞性線維症の患者には、小児科医や内科医などの経験豊富な医師と、他の専門医、看護師、栄養士、ソーシャルワーカー、遺伝学カウンセラー、心理学者、理学療法士、呼吸理学療法士などのチームによって管理された包括的な治療プログラムが必要です。治療の目的は、肺疾患や消化器疾患などの合併症の長期間の予防および治療、良好な栄養状態の維持や運動の奨励などです。

嚢胞性線維症の子供は、ごく普通の子供が行う活動に参加できず疎外感を感じることがあるため、心理的および社会的なサポートが必要です。治療に伴う負担のほとんどは、嚢胞性線維症の子供をもつ親にかかってきます。親は、病気のしくみや治療の意味づけを理解できるよう、十分な情報提供やトレーニングを受けます。

肺疾患の治療は、気道の閉塞を防ぎ、感染症にかかるのを予防することに重点がおかれます。ウイルス感染症は肺に重度の損傷を及ぼす可能性があるので、インフルエンザワクチンなど、すべての予防接種(予防接種: はじめにを参照)を受けるべきです。乳幼児は、日常的な健康管理の一環として、肺炎球菌ワクチンを受けるべきです。

呼吸理学療法(呼吸リハビリテーション: 呼吸理学療法を参照)には、体位ドレナージ、軽打法、振動法、せきが出るよう促す方法などがあり、肺疾患の徴候が初めて現れたときから始めます。幼児の親は、呼吸理学療法のやり方を習得し、毎日家庭で実施します。年長児や成人では、特別な呼吸訓練器具や加圧ベストなどを使い、自分で呼吸理学療法を行います。

気管が狭くなるのを防ぐ気管支拡張薬がよく使われます。重い肺疾患がある場合や血液中の酸素濃度が低い場合は、酸素吸入療法が必要です。一般的に、呼吸不全の患者に対する人工呼吸器の使用は有効ではありません。しかし、急性の感染症や外科手術の後、肺の移植手術の待機中などに、入院患者に短期間人工呼吸器を使用することは、ときに有効なことがあります。

吸入薬のデオキシリボヌクレアーゼアルファ(遺伝子組み換え型ヒトデオキシリボヌクレアーゼI)は、粘り気の強い粘液を薄め、たんと一緒に吐き出しやすいようにし、肺機能を改善し、重い気道感染症にかかる頻度を減らす目的で広く使われています。蒸気吸入が有効かどうかは立証されていません。コルチコステロイド薬は、乳児の重い気管支の炎症症状を改善し、気管支拡張薬が効かなかった気道の狭窄も軽減させます。ときに、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)(痛み: 非ステロイド性抗炎症薬を参照)が、肺機能の低下を遅らせるために使われます。

気道感染症は、できるだけ早く抗生物質で治療しなければなりません。気道感染症の最初の徴候が現れた時点で、感染を起こした微生物を特定し、治療に最も適した薬剤を選べるように、吐き出したたんや咽頭ぬぐい液のサンプルを採取し、検査します。黄色ブドウ球菌シュードモナスがよく見つかります。抗生物質は主に経口投与されますが、トブラマイシンなどは吸入します。感染症が重い場合は、抗生物質の静脈内投与が必要になります。入院が必要になることが多いですが、自宅でも実施できます。抗生物質の経口薬もしくは吸入薬を、定期的にまたは継続的に使うことで、感染症の再発を予防し、肺機能の低下を遅らせることができます。

膵疾患がある場合は、食事ごとに毎回、膵臓の酵素の代用物質を摂取しなければなりません。乳児用の粉末やカプセルが手に入ります。タンパク質と脂肪を含んだ特殊な調整乳は消化しやすいので、膵疾患があり、発育の遅い乳児に有効です。

食事によって、正常な成長のために十分なカロリーとタンパク質を得る必要があります。脂肪の割合は標準より高めにします。嚢胞性線維症の患者はより多くのカロリーが必要なので、十分な成長のためには普通よりも多くの脂肪が必要です。嚢胞性線維症の患者は、1日の標準摂取量の2倍の脂溶性ビタミンA、D、E、Kを、吸収しやすい特別な形で摂取しなければなりません。運動時、発熱時、気温の高いときは、嚢胞性線維症の患者は、塩分の摂取量を増やす必要があります。食べものから十分な栄養を吸収できない小児には、胃や小腸に挿入したチューブを通して、栄養補給を行う必要があります。

気胸、慢性の副鼻腔感染症、肺の一部に生じた重い慢性の感染症、食道の血管からの出血、胆嚢疾患、腸閉塞などに対しては、手術が必要な場合があります。肺の内部に、大規模もしくは繰り返し起こる出血がみられる場合は、出血している動脈をふさぐ塞栓形成術を行います。

重い肝臓の障害に対しては、肝臓移植が行われます。重い肺疾患に対する両方の肺の同時移植は、経験と技術の向上によって日常的に行われるようになり、成功率も上がっています。両方の肺の移植から1年後の生存率は約75%で、病状は大きく改善します。

正常な嚢胞性線維症の遺伝子を気道に直接届ける遺伝子治療は、嚢胞性線維症の治療法として将来的に非常に有望ですが、まだ研究段階にあります。経口もしくは吸入で投与するたくさんの新薬が、現在治験中です。

経過の見通し

嚢胞性線維症の重症度は、年齢に関係なく個人個人で大きく異なります。重症度は主に肺の損傷された範囲によって決まります。米国では、嚢胞性線維症の患者の半数は、約33年かそれ以上生存します。生存期間の見通しは過去50年間で確実に長くなってきており、それは主に肺に生じる変化の一部を治療によって遅らせることが可能になったからです。長期生存者は、男性および初期症状が消化管に限定されていた人に多いです。また、膵臓の病気を起こさない人の方が、より長期に生存します。

しかし、症状の悪化は避けられず、肺機能が失われ、やがて死に至ります。嚢胞性線維症の患者は普通、肺機能が悪化しはじめて何年もたってから呼吸不全で死亡します。少数ですが、心不全、肝疾患、気道への出血、手術の合併症などによって死亡することもあります。多くの疾患を抱えながらも、嚢胞性線維症の患者は普通、死の直前まで学校に通ったり働くことができます。

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